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ちいさなくに

さて、前期の会期を折り返しました。残り2週間。後期展示については来週追ってお伝えします。このベランダに咲く紫色の小さな花は「ちいさなくに」というカテゴリーにあります。

私たちひとりひとりは「くに」を持っており、それは言葉であり、また記憶でもある。それぞれの「くに」は交差することもあり、あるいは交差しないこともある。私たちの一生とはただそれだけのことだとも言える。

では「くに」とは何か。少し長めに引用してみます。

「国」というのはひとつの概念であるから、例えば国家や国民、国境という言葉もまた概念以上のものではないはずだ。国に「像/イメージ」を預けることで個々の人間はその国に属する国民となる。異なる国どうしの間には国境線が引かれる。また国を時間軸で管理することが歴史となる。

靴底が踏みしめる、面積にしてわずかな土地は私のものであり、そこに立つ時間は常に私自身のものである。その場所と時間にひとつの「像/イメージ」を与えるプロセス、それが「うつくしいくにのはなし」である。私たちひとりひとりは「くに」を持っており、それは言葉であり、また記憶でもある。それぞれの「くに」は交差することもあり、あるいは交差しないこともある。私たちの一生とはただそれだけのことだとも言える。

うつくしいくにのはなしⅡ – forget-me-not

2021年の展示「Stay out, stay home」でも、このオレガノ・ケントビューティーを展示しましたが、今回は2022年と2023年の夏に撮影した新作10点を展示しています。まずは2022年撮影の5点を。

2022-06-15 10:08 オレガノ・ケントビューティー
2022-06-15 10:10 オレガノ・ケントビューティー
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大野駅から夜ノ森駅まで

写真2022-07-11 09:49/大熊町大野 2022 495x660mm ラムダブリント

大野駅から夜ノ森駅まで

2022年7月11日 月曜日

 東京地方裁判所は、元会長ら四人に、合わせて13兆3千億円余りの賠償を命じる判決を言い渡した。巨大津波を予見できたのにもかかわらず、対策を先送りして事故を招いたと認定した。

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 週明け月曜日、小雨降る朝のこと。楢葉町役場内の献花台の開設を知らせ、記帳を呼びかける町内放送が流れる。数日前に起きた事件を受けてのことである。参院選候補者のポスターが並ぶ掲示板は、昨日の投票日の名残りをとどめる。小さな駅舎ひとつだけだった竜田駅は、鉄筋二階建ての立派な建物になった。東口には大きな駅前ロータリーができ、タクシーも常駐する。西口改札への通路となる跨線橋に上る。そもそも海側には出口すら無かったのだが、今は建設会社のオフィスビルが建ち、その奥には単身者用のアパートが建ち並ぶ。8時24分竜田駅発。8時39分大野駅着。

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 ようこそおおくまへいらっしゃいました

 コンクリートのモニュメントに、オレンジ色のノウゼンカズラの花。大野駅があるここ双葉郡大熊町は、つい先日の6月30日に特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されたばかりだ。福島第一原発からは約四キロ。駅の西側を降りるとすぐに解体作業員たちの姿がある。避難指示区域の地図を見て、隣駅の夜ノ森駅の場所を確認する。夜ノ森駅は富岡町にあり、距離にして7キロ。グーグルマップには1時間27分の道のりを提案される。

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竜田駅から双葉駅、請戸小学校へ

写真:2022-07-10 11:01/双葉町中浜2022 495x660mm ラムダブリント

「竜田駅から双葉駅、請戸小学校へ」

 竜田駅9時59分発常磐線下り原ノ町行きに乗車する。富岡から夜ノ森、大野と停車し10時19分双葉駅に到着。駅を降りたのは自分ひとりだけだ。昨年2021年2月、オープン間もない東日本大震災・原子力災害伝承館を訪ねた。町内全域が帰還困難区域の双葉郡双葉町の他の地区に先駆け、ここ復興祈念の公園と企業誘致のエリアを特定復興再生拠点区域と制定したのだ。
 8月下旬に予定された駅前エリアの避難指示解除に合わせ、双葉町役場の仮設庁舎が業務を再開する。限定的とはいえ、十一年ぶりに全町避難の町に住民が帰ってくる。前回は無料だったシャトルバスも、運賃二百円のコミュニティバスとして運行されていた。バスの窓からは、植え込みの真っ赤な百合の花が見えた。

 10時32分。バスは静かに駅前ロータリーを離れる。10時38分。伝承館・産業交流センター前に到着。無人の芝刈り機がゆっくりと広い敷地を移動する。穏やかな非日常。ここから南に約3キロ先には、東京電力福島第一原子力発電所がある。岬に阻まれて建屋は見えないが、鉄塔の先がわずかにのぞいている。
 海岸線に聳え立つ防潮堤の工事も終わったようだ。福島から宮城、岩手まで総延長370キロ。「巨大堤防」は海岸線を埋め尽くす。県道からの入口に低いロープが張られ、それをまたいで堤防に入る。海に向かって視界が開かれ、美しい海岸線が飛び込んでくる。蒼い海。白い砂浜。カモメが一羽、目の前を横切っていった。

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前期2週目

さて「うつくしいくにのはなしⅢ 理想郷(ユートピア)」は、前期2週目に入ります。郡山駅バス停9番か10番から「希望ヶ丘入口」下車。経路は何パターンかあります。いずれも370円区間で本数はそこそこありますがPASMO、Suicaは使えません。バス停を降り先前方右手角に見えるグレーの建物です。

映像は窓面に遮光シートを貼って映写してます。オープンが分かりづらいかもしれませんがこんな感じ。ぐるっと回って奥が入口。気持ちの良い季節です。

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うつくしいくにのはなし

うつくしいくにのはなし/楢葉町前原・山田浜

「うつくしいくにのはなし/楢葉町前原・山田浜」(2013年)388x587mm
前後期通じてご覧になれます。

ながれのきしのひともとは、
みそらのいろのみづあさぎ、
なみ、ことごとく、くちづけし
はた、ことごとく、わすれゆく。

『わすれなぐさ』 ウィルヘルム・アレント(上田 敏 訳)

2013年9月1日。福島県双葉郡楢葉町前原・山田浜地区は、木戸川の河口南東方向に広がる集落だ。鮭が遡上する小さな河川と豊かな自然に育まれた土地と聞く。日曜日だが国道沿いの民家に人影は見られなかった。

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