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竜田駅から双葉駅、請戸小学校へ

写真:2022-07-10 11:01/双葉町中浜2022 495x660mm ラムダブリント

「竜田駅から双葉駅、請戸小学校へ」

 竜田駅9時59分発常磐線下り原ノ町行きに乗車する。富岡から夜ノ森、大野と停車し10時19分双葉駅に到着。駅を降りたのは自分ひとりだけだ。昨年2021年2月、オープン間もない東日本大震災・原子力災害伝承館を訪ねた。町内全域が帰還困難区域の双葉郡双葉町の他の地区に先駆け、ここ復興祈念の公園と企業誘致のエリアを特定復興再生拠点区域と制定したのだ。
 8月下旬に予定された駅前エリアの避難指示解除に合わせ、双葉町役場の仮設庁舎が業務を再開する。限定的とはいえ、十一年ぶりに全町避難の町に住民が帰ってくる。前回は無料だったシャトルバスも、運賃二百円のコミュニティバスとして運行されていた。バスの窓からは、植え込みの真っ赤な百合の花が見えた。

 10時32分。バスは静かに駅前ロータリーを離れる。10時38分。伝承館・産業交流センター前に到着。無人の芝刈り機がゆっくりと広い敷地を移動する。穏やかな非日常。ここから南に約3キロ先には、東京電力福島第一原子力発電所がある。岬に阻まれて建屋は見えないが、鉄塔の先がわずかにのぞいている。
 海岸線に聳え立つ防潮堤の工事も終わったようだ。福島から宮城、岩手まで総延長370キロ。「巨大堤防」は海岸線を埋め尽くす。県道からの入口に低いロープが張られ、それをまたいで堤防に入る。海に向かって視界が開かれ、美しい海岸線が飛び込んでくる。蒼い海。白い砂浜。カモメが一羽、目の前を横切っていった。

 震災遺構となった浪江 町立請戸小学校へと向かう。波江町は双葉町の隣町である。地震発生から四十分、大津波が押し寄せる寸前に児童93名全員を避難させた。一方で請戸中浜地区の死者・行方不明者が計133名と多いのは、津波の翌日に発令された原発からの避難指示により、行方不明者の捜索が打ち切られてしまったからだ。
 請戸漁港まで約4キロの道のりを、堤防の上をゆっくりと歩いていく。陸地側の、もともとは集落であったその土地には盛り土をせず、防災林を育てる囲いだけがどこまでも続いている。数百メートル先に水色の外壁の建物が見え、念のためそれをグーグルマップで請戸小と確認する。堤防の上からは降りられず、防波堤の切れ目である港まで直進し、停泊する船を右手にぐるりと下の道へと折り返す。 

 汗ばむ陽気だ。道路脇に設置されたモニタリングポストは、毎時0.035μGy(マイクログレイは放射線の量で、一方マイクロシーベルトは人体に影響を与える線量のこと)という数値を示している。
 「震災遺構波江町立請戸小学校」の看板を右に入る。手指を消毒し、窓口で入場料を支払う。海岸線まで約300メートル。言葉を失う…。

 帰路を辿りながら、当時の光景を少しだけ頭の中で重ねてみる。自分が見た遺構は、震災と津波被害の現実とその断面であり、人々の記憶の集合体であり、そして詳細に再現された物語でもある。ただそれを震災遺構として「残す」ことはまた「復興」とは別の次元の話ではある。復興には巨額な税金が投入される。除染がおこなわれ、巨大堤防が建てられ、道路や鉄道、インフラが整備される。遺構が残され、伝承館と祈念公園が作られる。企業も誘致される。この地域の、おそらく最後になるだろう巨大投資を誇りに思う者もいるだろう。だが、この11年の年月は、人々が心身ともに受けた「傷」を癒したか。自分たちが担う未来について語り合える仲間がいたか。誰もが自由にものが言えたか。あるいは、国策という権力構造に振り回され…。

 振り返り、遠くに水色の校舎を見据える。足元のひび割れたアスファルトを見る。14時10分、帰りのバスは伝承館・産業交流センター前を出発する。14時16分双葉駅前に到着。14時31分双葉駅発。14時53分竜田駅着。

「うつくしいくにのはなし / 理想郷(ユ ートピア)」より引用

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冊子は会場のトトノエル gallery cafeの他、銀座のギャラリーナユタでも扱って頂いています。拙サイトのリンク先からも購入できます。

うつくしいくにのはなしⅢ 理想郷(ユートピア)
中根 秀夫 /写真·映像

  • 前期|2023年10月7日[土]〜11月1日[水] /写真・映像
  • 後期|2023年11月4日[土]〜11月29日[水] /写真

12:00 ~ 18:00  木・金曜は休廊します 

トトノエル gallery cafe 
〒 963-8035 福島県郡山市希望ヶ丘 1-2 希望ヶ丘プロジェクト内
tel. 024-901-9752 駐車場3台あります


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