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大野駅から夜ノ森駅まで

写真2022-07-11 09:49/大熊町大野 2022 495x660mm ラムダブリント

大野駅から夜ノ森駅まで

2022年7月11日 月曜日

 東京地方裁判所は、元会長ら四人に、合わせて13兆3千億円余りの賠償を命じる判決を言い渡した。巨大津波を予見できたのにもかかわらず、対策を先送りして事故を招いたと認定した。

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 週明け月曜日、小雨降る朝のこと。楢葉町役場内の献花台の開設を知らせ、記帳を呼びかける町内放送が流れる。数日前に起きた事件を受けてのことである。参院選候補者のポスターが並ぶ掲示板は、昨日の投票日の名残りをとどめる。小さな駅舎ひとつだけだった竜田駅は、鉄筋二階建ての立派な建物になった。東口には大きな駅前ロータリーができ、タクシーも常駐する。西口改札への通路となる跨線橋に上る。そもそも海側には出口すら無かったのだが、今は建設会社のオフィスビルが建ち、その奥には単身者用のアパートが建ち並ぶ。8時24分竜田駅発。8時39分大野駅着。

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 ようこそおおくまへいらっしゃいました

 コンクリートのモニュメントに、オレンジ色のノウゼンカズラの花。大野駅があるここ双葉郡大熊町は、つい先日の6月30日に特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されたばかりだ。福島第一原発からは約四キロ。駅の西側を降りるとすぐに解体作業員たちの姿がある。避難指示区域の地図を見て、隣駅の夜ノ森駅の場所を確認する。夜ノ森駅は富岡町にあり、距離にして7キロ。グーグルマップには1時間27分の道のりを提案される。

 商店街を歩いてみる。原発事故の被災地では見慣れた光景ではあるが、かつての面影を残した街は、深い記憶の底に沈んでいる。津波の被害は無くても、放置された街は痛ましい。線量計のスイッチを入れると、毎時0.3μSv(マイクロシーベルト)から、スポット的に0.8μSvを指し示している。年間の被曝線量にして一ミリシーベルトを少し越える計算で、少し高いかな…という印象だ。あえていえば、更地に戻さなければこれ以上は線量が下がらないのだ。住民の方と目が合い、軽く会釈をする。線量計のスイッチを切る。自分もまた見られているのだ。

 大熊町には不思議と合歓(ねむ)の木が多い。6月から8月にかけて、糸のような赤紫色の花が咲き乱れる。街を抜け、しばらく歩くと穏やかで美しい風景が広がる。小川が流れ、林をくぐり抜けると鶯の声に包まれる。人が去り、家屋は朽ちても庭木は残る。今は紫陽花も見頃である。町内を巡回する役所の車とすれ違う。途中、携帯の電波が途切れることもない。たとえ道に迷ってもすぐに引き返せる。

 空気が少し変わってきた。いつの間にか富岡町に入ったようだ。2017年、富岡町は帰還困難区域2019年4月に居住制限区域の避難指示を解除したのだが、結局のところ、大熊町に隣接した富岡の土地には人が戻らなかった。地元自治体に引き渡された後は、人の手が届かない土地は少しずつ荒れていく。2年のタイムラグで富岡町は分断された。

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 2時間ほどかけて夜ノ森に到着。

 特定復興再生拠点区域の立ち入り規制が解除された後の2021年2月に、自分も夜ノ森駅を訪れている。今回はバリケードで封鎖されていた桜並木にも立ち入ることができた。除染も進み、壊れた家屋も取り壊されて更地が増えた。この先、町はどう変わるのか。「ゲームセンター理想郷」の黄色い看板はまだ残っている。夜ノ森駅前と大野駅前とを、交互に思い浮かべてみる。

「うつくしいくにのはなし / 理想郷(ユ ートピア)」より

冊子は会場のトトノエル gallery cafeの他、銀座のギャラリーナユタでも扱って頂いています。拙サイトのリンク先からも購入できます。

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うつくしいくにのはなしⅢ 理想郷(ユートピア)
中根 秀夫 /写真·映像

  • 前期|2023年10月7日[土]〜11月1日[水] /写真・映像
  • 後期|2023年11月4日[土]〜11月29日[水] /写真

12:00 ~ 18:00  木・金曜は休廊します 

トトノエル gallery cafe 
〒 963-8035 福島県郡山市希望ヶ丘 1-2 希望ヶ丘プロジェクト内
tel. 024-901-9752 駐車場3台あります


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