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「ちいさなくに – in a small realm」覚書

プロジェクトの開始時に渡邊ゆりひとさんが「覚書」を書いて下さったので、なんとかそれに答えたいとは思ったのだが、なかなか思うように書けないまま今に至る。渡邊さんとの出会いは2014年、吉祥寺にあった小さなカフェギャラリーでの展示白い日 – a white day 池内 晶子 / 中根 秀夫 – 写真のオープニングである。

a white day @Café & GalerÍa PARADA /2014

ところで、池内晶子さんと自分とは大学時代からの古い友人で(学生時代から「糸」の人なのだ)、この展示では、彼女の日々の小さなガラケイ写真を出すべく二人展を持ちかけた。会場のカフェギャラリー・パラーダは、池内さんの予備校時代からのお友達である菅野まり子さんを通じて紹介して頂いた。その日は菅野さんは来られなかったが、渡邊さんひとりが訪ねて来てくださった。長髪にベレー帽の、およそ今まで自分は知り合ったことがないタイプの外見に少し驚いたが、話は弾んだように思う。

ついでなので少し補足すれば、池内さんも自分も海外に出ていた時期があり、その後音信不通だったが、2010年の彼女の個展で再会した(全く忘れていたのだが、大学時代に貸していた本を返してくれた)。翌年の池内晶子×鵜飼美紀展では会えなかったが、さらに1年後の2012年に自分の個展のオープニングに池内さんが来てくれた。それがきっかけとなり、数日のうちにかみむら泰一さんの個展会場での即興演奏が実現。その録音が最初のビデオプロジェクト、そしてDVD製作に繋がった。ちなみに告知も無いまま、たまたま演奏に立ち寄ったのが武田多恵子さんで、後に3人でのプロジェクト「もういちど秋を− try to remember」へと連なる。武田さんは実に鵜飼さんと知り合いで、武田さんには鵜飼さん経由で完成したDVDを送ったのがそのきっかけだ。

実は、2013年、現在のプロジェクト「ちいさなくに – in a small realm」の起点となる初めての訪問(まだ帰還準備区域だった木戸駅周辺に立ち寄る。2014年にうつくしいくにのはなし – a tale of a beautiful countryとして個展を開催)は、公に書いたことはないけれど、かみむらさんと池内さんと3人で行った「プライスコレクション展」(福島県立美術館)の帰りの出来事だ。だからもちろん二人展が震災と原発事故と無関係のはずがない。話を2014年の展示に戻すと、自分はiPhoneで撮った反原発デモのスナップ、90年後半の古い白黒写真、その他花の写真を何点か展示した(展示写真)。今のようなマクロレンズで花を撮るのはそれからしばらく後のことになるが、いずれも今回のプロジェクトにまで繋がるテーマではあった。

それから2016年のちょうどクリスマスの頃、渡邊さんから「狩野志歩の映像 インスタレーション+渡邊ゆりひとライブパフォーマンス」へのお誘いがあった。狩野志歩さんが神奈川県立近代美術館鎌倉別館の改修工事に伴い委託されたビデオ撮影を、マルチチャンネルで展開したインスタレーションに渡邊さんのソロボーカルという素敵なイベントだ。

自分はちょうど武田さんとかみむらさんとの共作の展示が終わり、翌年の都美セレクショングループ展「海のプロセス−言葉をめぐる地図」の企画準備に追われている頃だったが、この狩野さんと渡邊さんとのコラボレーションは、自分の映像に対する別の可能性を予感する出来事でもあった。

こうして振り返ってみればだが、渡邊ゆりひとさんとの出会いは複雑な経路とプロセスを辿りながら、作品として然るべき場所に落ち着きつつある。幾重にも交差するプロセスの中で、たまたまその道筋を辿った、ただそれだけのことではあるのだが。

最後に2018年の展示「はるかな時のすきまで – ephemeral / eternal」のために書いた自分のテキストを引用してこの話を終えたいと思う。

 こんなことを考えてみる。

 私が今ここで朝食を取っている時、あなたは何をしているのだろうか。今日これから展覧会場に出かければ、あなたと会うかもしれないし、会わないかもしれない。いや、私のことなど知らないあなたは展覧会には行かないだろう。でも、もしかしたら偶然に新宿駅の改札ですれ違うかもしれないし、あるいはいつの日か別の場所で巡り合うかもしれない。あなたと私という関係以外にも、かようなプロセスは幾重にも交差し、あるいは交差せずに、それぞれの人がそれぞれの一生を終える。

 プロセスは人と人との関係にのみ生じるのではなく、その対象は例えば、あなたが見上げた飛行機雲かもしれないし、お気に入りの絵本の1ページかもしれない。それは掌の上の小さな時計の秒針かもしれないし、ガラスに挟まれた一片の青い花びらかもしれない。その場に開かれた小さなプロセスに小さな言葉が放たれ、その言葉はあなたの指先に微かに触れる。

ephemeral / eternal, 2018より

ちいさなくに – in a small realm」は2022年3月31日までのオンデマンド映像プロジェクトです。

Hideo Nakane | Video Work
Yurihito Watanabe | Monody & word


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