写真集:in ten years ―うつくしいくにのはなし/理想郷
in ten years
初めて福島県の浜通りを訪れたのは2013年9月のことだ。偶然下りた土地の先に開けた「風景」、奇妙な静けさを湛えたその場所に魅了された。海辺の集落は福島県双葉郡楢葉町の前原・山田浜地区、その入口にあたる常磐線の小さな駅が「木戸駅」と呼ばれると後に知った。
出会った風景が忘れがたく、常磐線の一部復旧に合わせて2015年に再訪した。以来、幾度となくこの地を訪れ変わりゆく土地に思いを寄せてきた。2020年、発表するつもりもなく撮り溜めていただけの写真を、常磐線木戸駅をめぐる土地の記憶を主題に構成し、福島/FUKUSHIMAをテーマにした写真を都内の二つのギャラリーで発表した。
福島にゆかりのない自分が、先の個展を経て気づいたのは、東京/TOKYOと福島/FUKUSHIMAの歴史的な「非対称性」についてである。FUKUSHIMAの「復興」が謳われたTOKYOオリンピックの開催に伴い、その「復興」の言葉に押し出されるように常磐線全線が開通し、「将来にわたって居住を制限する」とされてきた帰還困難区域内に、政策主導で居住を可能にする「特定復興再生拠点区域」を設け、夜ノ森駅(富岡町)大野駅(大熊町)双葉駅(双葉町)の周辺地域がその対象とされた。2023年には新たなテーマをもとに初めて福島県(郡山市)で個展を開催することとなり、翌春に展示の一部を東京に巡回した。
今回の写真集には2021年から2024年夏にかけて撮影された写真170点を掲載する。ここ10年で復興を終えたとされる木戸駅周辺と、いまだ行く末が見出せないこれらFUKUSHIMAの土地を行き来し、「震災から10年」という言葉では括れない「浜通りの現在/現実」を問う内容となる。震災と原発事故の当事者ではなく、しかし同時に福島から送られて来る電気を無自覚に消費し続けた方の当事者として、この土地を通して考え続けること、美術家としてその事実に自覚的であり続けること、「傷」や「痛み」について何度でも問い直すこと、他者の悲しみに寄り添うことの「不可能性」について考えること。そこに新たな「風景論」の地平が開かれるであろう。
2025年3月
in ten years ―うつくしいくにのはなし/理想郷
2025年2月28日発行
著者(撮影):中根 秀夫
テキスト:堀 宜雄(福島県立美術館学芸員)
デザイン:岡本 洋平(岡本デザイン室)
発行:hideonakane-sideB
ISBN978-4-600-01558-9 C0072
A4横変形 上製本216ページ
定価:5,500円(税込)
発売記念価格:5000円(税込)
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