いわさきちひろさんの『戦火のなかの子どもたち』(署名は「岩崎ちひろ」となっている)は、1972〜73年にかけて、ベトナム戦争のさなかに描かれたもの(写真は絵本より2点)。彼女の戦争体験と重ね合わせたこの絵本はまた、彼女が手がけた最後の絵本でもある。もちろんベトナムへは日本の米軍基地から爆撃機が飛び立っている。
先日見た「生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。」展に絵本には使われなかった連作が出品されていて、《燃える花びら》というタイトルがついている。シクラメンの花であり戦火である赤。子どもの手の指先だけが見える(写真は展覧会図録より)。
赤いシクラメンの花は
きょねんもおととしも そのまえのとしも
冬のわたしのしごとばの紅一点
ひとつひとつ
いつとはなしにひらいては
しごとちゅうのわたしとひとみをかわす。
きょねんもおととしも そのまえのとしも
ベトナムの子どもの頭のうえに
ばくだんはかぎりなくふった。
赤いシクラメンの
そのすきとおった花びらのなかから
しんでいったその子たちの
ひとみがささやく。
あたしたちの一生は
ずーっと せんそうのなかだけだった。
『戦火のなかの子どもたち』本文より 文 いわさき ちひろ