Blog

前期展示について

前期展示「うつくしいくにのはなしⅢ 理想郷」

【承前】 さて今回の郡山での写真展は、前・後期とも4週ずつと長めの期間を頂いておりますので、展示作品を完全に入れ替えることにしました。以下、とりいそぎ前期展示(2023年10月7日~11月1日)について、皆様にお知らせしたいと思います。

2022-07-10 11:01/双葉町中浜

今回は自分にとっても特別な展示ですので、映像作品3点《もういちど秋を - try to remember》《try to remember 2020》《ちいさなくに - in a small realm》を含めて展示を構成しました。なお、映像は前期のみの出品となります。

《もういちど秋を - try to remember》(2016)は、サックス奏者のかみむら泰一さんと詩人の武田多恵子さんと3人でのコラボレーションで、武田多恵子さんの3つの詩集「麦の耳」(1986年)「流布」(1993年)「蜜月」(2013年)から20編の詩を抜粋し、季節を巡る5つのユニットで構成された映像詩で、1年をかけて制作されました。詳細はこちら▷ お気づきだと思いますが、かみむら泰一さんとは2013年9月にともに楢葉町に訪れ、以来いくつかのプロジェクトを重ねてきました。

作品は北は根室から南は石垣島まで、武田さんの詩のイメージを求め撮影を重ね、また自宅でセットを組んで撮影したりもしました。そうそう、今は無き神奈川県立近代美術館鎌倉本館でも撮影をさせていただきました。福島はといえば、2016年に常磐線の竜田駅から、まだ堤防工事が始まったばかりの楢葉の海を訪ねて撮影をしました(限定公開。「5-2.合歓」2:20から)。

《try to remember 2020》は、この「Unit5」から、コロナ禍が始まった2020年3月に行った上映会(@さいたま市民会館うらわホール)でのライブ・イベントの音源をもとに、かみむら泰一さんと再構成・編集し「アートにエールを|東京プロジェクト」の助成で公開されたものです。全編こちら▷からご覧いただけます。 冒頭は2019年に巨大堤防がほぼ完成した楢葉町の山田浜で撮影した映像と、2020年5月に人気のない都内(銀座)で撮影した映像を加え編集をしました。かみむらさんの即興演奏が冴え渡ります。

映像作品三つ目は、渡邉ゆりひとさんとの共作《ちいさなくに - in a small realm》で、2021年製作の最も新しい映像作品です。こちらも上記2020年3月の上映会にて、渡邊ゆりひとさんの詩とヴォーカル・インプロヴィゼーションで初演・公開された作品で、翌年10月にヴォーカルトラックの再録音を経て動画配信サイトVimeoにて公開しました。展覧会での発表は初めてとなります。

700カットを超える「日常」を捉えた写真(自宅のベランダで育てる小さな花、あるいはデモをする人々)を繋ぎ、楢葉町の山田浜で撮影されたビデオを加え、渡邊さんが紡いだ詩篇に独唱を加えた10のphase(位相)、25分間の映像作品です。この機会にぜひご覧いただければと思います。詳細はこちら▷

なお会場のトトノエル gallery cafeでは、通常の展覧会のように回しっぱなしの映像展示ではなく、カフェの特性を生かし、gallery cafeのオーナーである芳賀沼さんに上映をお任せしています。ご希望の映像をお気軽にお申し付けください。コーヒーなどお飲みになりながら、ゆっくりとご鑑賞頂ければ幸いです。

さて前期展示は映像だけでなく、もちろん全て新作の写真で皆さまをお迎えします。上のカモメの作品も、DM掲載のメインビジュアルのひとつである合歓(ねむ)の花の写真も、去年2022年7月に「浜通り」を訪問した時に撮影したもので、ともに495x660mmと大きな作品です。カモメも合歓も《もういちど秋を - try to remember》のキーワードともいうべきモチーフであり、特に合歓のシーンは地元のとある公園で撮影された花と楢葉の海とを重ね合わせて表現しましたが、当時はまだ帰還困難区域であった大熊町に、庭木として合歓の木が多く残っていたことは予想外の、心に深く残る「出会い」でもありました。合歓は6月から8月の終わりにかけて花を咲かせますが、糸のような花を木の上の方に付けるため、その存在を知らなければ見ることもかなわない花でもあります。

2022-07-11 09:49/大熊町大野

また、《ちいさなくに - in a small realm》で多く収録した自宅ベランダで咲く小さな花のシリーズから、今回は2022年から今夏までに撮影した紫色の小さな花「オレガノ・ケントビューティー」の写真を、10点厳選して展示いたします。

2022-08-09 09:31 オレガノ・ケントビューティー
2023-06-17 12:32 オレガノ・ケントビューティー

そもそも「うつくしいくに」「ちいさなくに」というのは、「国/国家」という言葉から派生するイメージから創作した「ことば」であって、「国/くに」という「非対称性」に言及する概念でもあります。

「靴底が踏みしめる、面積にしてわずかな土地は私のものであり、そこに立つ時間は常に私自身のものである」

以下、2019年に開催した「うつくしいくにのはなしⅡ – forget-me-not」展で発表したテキストを引用します。そして言うまでもなく、このことは今回の展示で言及したTOKYOとFUKUSHIMAの「非対称性」と重なり合う概念でもあります。皆様にこの展示をご覧いただければ幸いです。

「国」というのはひとつの概念であるから、例えば国家や国民、国境という言葉もまた概念以上のものではないはずだ。国に「像/イメージ」を預けることで個々の人間はその国に属する国民となる。異なる国どうしの間には国境線が引かれる。また国を時間軸で管理することが歴史となる。

靴底が踏みしめる、面積にしてわずかな土地は私のものであり、そこに立つ時間は常に私自身のものである。その場所と時間にひとつの「像/イメージ」を与えるプロセス、それが「うつくしいくにのはなし」である。私たちひとりひとりは「くに」を持っており、それは言葉であり、また記憶でもある。それぞれの「くに」は交差することもあり、あるいは交差しないこともある。私たちの一生とはただそれだけのことだとも言える。

うつくしいくにのはなしⅡ – forget-me-not

2023年10月


うつくしいくにのはなしⅢ 理想郷(ユートピア)
中根 秀夫 /写真·映像

  • 前期|2023年10月7日[土]〜11月1日[水] /写真・映像
  • 後期|2023年11月4日[土]〜11月29日[水] /写真

12:00 ~ 18:00  木・金曜は休廊します 

トトノエル gallery cafe 
〒 963-8035 福島県郡山市希望ヶ丘 1-2 希望ヶ丘プロジェクト内
tel. 024-901-9752 駐車場3台あります


コメントはまだありません »

No comments yet.

RSS feed for comments on this post.

Leave a comment

CAPTCHA